憲法学習会Ⅱ兼勤労者通信大学スクーリング 「憲法と日米安保体制のせめぎ合い」~安倍改憲戦略の危険とその矛盾~

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6月16日午後2時より、憲法学習会Ⅱ兼勤労者通信大学スクーリングを開き18名が参加しました。

「憲法と日米安保体制のせめぎ合い~安倍改憲戦略の危険とその矛盾~」と題して山田敬男氏(労働者教育協会会長・現代史家)が講演をおこないました。(上の写真)その内容をお知らせします。

1、改憲戦略と7月参議院選挙

安倍首相の改憲への意欲は強烈だが、96条先行作戦が失敗し、世論が反発を強めると同時に、保守派や改憲派からも批判が出ています。また安倍首相の「侵略の定義は定まっていない」発言や、橋下大阪市長の「慰安婦制度が軍に必要」であったとの発言は、内外の批判にさらされ、改憲戦略に狂いを生じさせています。

2、改憲戦略の二つの作戦

改憲戦略は解釈改憲と明文改憲の二つの作戦で行われています。解釈改憲では、集団的自衛権問題の政府解釈を変更することにより、9条を実質的に死滅化させようとしています。明文改憲では9条2項と96条を優先して改憲することが、日本経団連を含めた方針となっています。自民党は野党時代に、リベラル派が排除され、タカ派集団に変質しており、改憲草案では、平和主義が否定され、基本的人権よりも国家の利益が優先されています。

3、憲法問題を規定する日米関係

2000年の第1次「アーミテージ報告」では、「英米の特別な関係を、米日同盟のモデルと考えている」と述べられています。2005年の日米安全保障協議会で、日米が「グローバルな『共通の戦略目標』をもつことを確認」しました。2010年には、日本の防衛政策が専守防衛に見合う「基盤的防衛力」から、海外活動を重視する「動的防衛力の構築」に転換され、民主党政権のもとで、中東やアフリカへ自衛隊が派遣されました。2012年にアジア太平洋重視の新しいアメリカの軍事戦略が提起され、一方でアメリカ主導の国際システムに中国を引き込み、アジアではASEAN主導の地域機構にアメリカの影響力を強め、中国の影響力を制御するとともに、他方では中国を制御できない場合を想定して、日米同盟を一段と強化する戦略となっています。日米安保と憲法9条との矛盾が、ぎりぎりのところにきています。

4、草の根からの社会的運動が決定的な意味を持っている

平和の問題(憲法9条)と反貧困の課題(憲法25条)を結びつける、草の根からの運動が重要です。貧困の拡大は、戦争の危険性を増やしています。軍事同盟が時代遅れになっている現代で、東アジアの平和のルールを北東アジアに広げ、9条の役割の攻勢的な平和戦略が求められています。職場や地域で集団的関係が破壊されています。まともな人間関係を組織していくためにも、理不尽なことを許さないで、お互いを人間として認め合う関係が大切です。

 

憲法学習会での質問と回答

Q:自民党がタカ派集団に変質したということと、アメリカの支配者と一致しているのかが、よくわからない。

A:この間の自民党を見ていると、アメリカの軍事戦略をきちんと理解していないという風に思います。日本の支配層、自民党もそうだし防衛庁の官僚もそうだけれど、すぐ中国を包囲するという方向に力点を置くわけですね。それは彼らの思惑がそこにあるからです。だけど決してアメリカはソ連封じ込めのような形で中国を封じ込めるなんて思ってないわけです。中国をどうアメリカのコントロールの下に置くのか、そこに大きな力点があるわけです。

 

Q:自民党憲法草案の「天皇を戴く国家」という表現が意味するところは。

A:今の自民党案は第5条なんですが、天皇は国事に関する行為を行い、その後、国政に関する権能を有しないということが入っているんですね。だから戦後の新しい状況に見合った天皇中心の反動的な国家体制を考えているんだけれど、戦前への復帰というのは正確ではないと思います。

 

Q:現在の状況が、サッチャーが出てきた時や、ヒットラーが出てきたときと似た社会状況にあるのではという気がしますが。

A:日本の国民の中で、尖閣や竹島の問題をめぐって、対外的危機感が領土ナショナリズムという形で出てきています。もう一つは新自由主義的改革による格差と貧困の広がりによる社会的閉塞感という問題ですね。対外的危機感と社会的閉塞感が、改憲を含む反動的な攻勢の中で利用されるという問題に、どう対応するかということです。アジアの平和と安全をどう作っていくのかという、説得力ある議論が求められていると思います。また貧困と戦争の問題を、明らかにする必要があると思います。

 

Q:従軍慰安婦の問題で、文書があるという話を聞きましたが。

A:これは現代史家の吉見義明さんの作業というのが非常に大きかったと思います。彼は防衛庁で当時の軍関係の資料を調べて発見したわけです。つまり軍が直接、慰安婦制度に関与していたということを具体的な資料を使って明らかにしてメディアで発表されました。吉見さんの研究は、大月書店から資料集で出ています。

 

Q:国家権力の中枢である官僚が憲法改悪にどういう見地を持っているか。

A:いわゆる高度成長を推進した自民党政治の路線と対応する形で、内閣法制局による集団的自衛権の否定ということが出てきていると思います。この路線は、岸、中曽根、安倍から経済主義と批判されるわけですが、この従来の路線が構造改革と官僚の再編成によって、国や社会のあり様が変わろうとしています。

 

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