「弁証法講座」ノート


1978年4月、東京にあった中央労働学院で行われた、許萬元(ホ・マンウォン)氏の「弁証法講座」(全12回)に参加しました。その時の多田の講義ノートを30数年ぶりにまとめてみました。聞き間違い等もあるかもしれないので、内容でおかしな個所は多田の責任によるものです。講師のレジュメにある当初の講義計画は、大幅に変更され、最終的な各回の講義内容は、PDF資料の末尾に付けておきました。私にとって弁証法の理解が大きく進んだ講義でした。弁証法に関心のある人に読んでほしい資料です。(多田)

弁証法講座

トモダチ作戦は「核戦争想定下の米軍実働演習ではなかったか」


                 中谷信和 20150203

 アメリカ軍は2011年3月11日に発生した東北沖大地震・東日本大震災に最大人員1万6000人、原子力空母ロナルド・レーガンや強襲揚陸艦エセックスなど艦艇15隻、航空機140機を投入する「トモダチ作戦」をおこなったことはマスコミや防衛省も大宣伝し、そのことはよく知られています。

しかし、米軍兵士が放射能で被爆したことは、ネットなどで報道されましたが、みんなが知る周知のこととなっていません。

 とくに問題になっているのは原子力空母ロナルド・レーガンで、3月13日から乗員5500人とともに仙台沖・福島沖に展開しました。空母レーガンは80日間、海岸からわずか数km~十数km付近にいてヘリなどで救援作業を続けました。福島第1原発事故の放射能はその8割が海に向かったことはよく知られている通りです。被爆するのが当然の地点に艦艇を派遣したのは米軍司令部の「放射能被爆を想定した」作戦だったと推定できます。原子力空母は、内部に原子炉を抱えてつねに放射能漏れの危険に直面している艦船ですから、放射線測定器は艦内各所に常備していなくてはなりません。

 2012年12月に、トモダチ作戦に従事したレーガン乗組員だった元アメリカ軍兵士8人が東電を被告に放射能障害を訴えて、1億1千万ドルの損害賠償をサンディエゴ連邦地裁に提訴しました。2013年には43人が追加提訴して51人の原告団となり、2014年には原告団は200人を超えました。

 元操舵手モーリス・エニスさんは、作戦終了後、タイへの寄港前に「医学的に健康で疾患なし。政府に訴訟を起こさない」という文書に署名させられました。

 エニスさんは、空母に掲げられていた星条旗を下ろす仕事をしましたが、放射能汚染のうわさが艦内に広がったので気まぐれに同僚と放射能検査を受けた(いつかは不明)ら、同僚はゼロだったがエニスさんの手が放射能汚染されていることがわかりました。何度も手を水で洗い流したそうです。

 ワッサーマンさんは「金属の味のする物質が甲板に雪のように降り積もった」と証言しています。空母が作戦を終え日本を離れる頃になって、ようやく(!)飛行甲板を洗い流す作業をおこなったが、幹部の将校やパイロットにだけヨウ素剤が配布されていたことを原告の兵士は後になって知らされました。

 原子力空母レーガンは、水を海水から塩分を取りのぞいて使っています【飲み水は不明です】。もちろん、レーガンの周囲の海は高濃度の放射能で汚染されていました。

 NRC文書によれば、3月13日、レーガン上空の放射線量(ガンマ線測定値)は、

6μシーベルト/毎時(つまり現在の浜松市内0.03μSv/hの200倍)でした。もちろん、これはガンマ線による外部被曝の数値で内部被曝とα線・β線は含みませんから危険はさらに大きかったわけです。

 原告となった乗員は疾病が多発していますが、国防総省は「全身及び甲状腺に取りこまれた可能性のある汚染物質の最大評価量は、今後の調査をおこなう根拠のあるほど深刻なものではない」とし、乗員はじめ在日アメリカ軍人の連邦政府「医療記録」を中止決定しました。

 アメリカ政府のABCCと日本政府が広島市・長崎市の原爆被爆者の治療をおこなわず、検査だけをしていたのと同じです。

他の米軍艦船や、同海域で活動していた自衛隊員の健康が心配です

  なお、3月17日、福島第1原発上空300フィート(約90m)は87.7mSv/hでした。(『朝雲縮刷版 2011』p99「3月24日」による)

 注1)「アメリカ合衆国連邦政府は46日、アメリカ軍が展開中の「トモダチ作戦」の予算が最大8000万ドル(約68億円)であることを、日本政府に伝えた[7]。」

 普通「トモダチ」に「救援費用総額」を送りつけるでしょうか。

 注2)「「トモダチ作戦は恐らく、放射性環境下では最も有名な作戦になるだろう」、また「この経験は戦略的な価値がある」と作戦に参加した第265海兵中型ヘリコプター飛行隊指揮官は述べている[52]。」

読後感


「憲法主義」内山奈月(AKB48)、南野森(しげる)(九州大学教授)PHP研究所;2014.7発行

「条文には書かれていない本質」という副題がついていたが、読んでの印象ではその副題よりも「憲法の全体構造がはらんでいる本質を解き明かす」といった副題を付けた方が的を得ていると思える本でした。

現在問題になっていることがらをほとんど取り上げ、「民主的正当性」という切り口で解明していくところは新鮮でしたし、憲法の各条文が持つ意味を深く理解させてくれる好書であり、憲法と法律の違いを深めている展開もよかったと思っています。

「AKB48では恋愛は禁止」が憲法違反になるかどうかで、南野教授と内山さんが意見交換をするところや、講義の後のレポートで内山さんが、自分の考えをさらに深めて示すところなど、今の若者の受け止め方の一端なのかとも思い、興味を持ちました。

何よりもよかったのは、一方的な講義ではなく、問いかけと答えるやり方・進め方で、教える側と学ぶ側が対話をしながら学習を深めていくスタイルが、読者も学習者の一員として学びに一緒に参加しているかのようで、読み出すと止まらない本でした。

若い人に勧めたい本であるだけでなく、憲法はだいたい分かっていると思っている人も読めば、なるほどと頷かせる個所がいくつも出てくることは間違いありません。憲法改悪がいよいよ日程に上ってきている現在、若い人たちが大いにこの本を手にし、読んでくれればと期待します。

2015.2.07

大井 学

本の紹介


「非正規雇用と労働運動-若年労働者の主体と抵抗」伊藤大一著、法律文化社

「本書は、2004年に徳島県で結成された請負労働者組合の7年間にわたる調査をもとに執筆された。」と冒頭に書かれています。トヨタの2次下請の請負労働者たちが、どのように労働組合に出会い、そして直接雇用から正社員化を勝ち取っていったかを、綿密な調査に基いて紹介しています。各労働者の生い立ち、仕事へのプライド、趣味や遊びにいたるまで、一人一人の人間像が浮かび上がってきます。「非正規労働者の組織化」と言っても、それほど簡単なことでないのは誰もがわかっている中で、成功した例として、多くの教訓を投げかけています。(多田)

許萬元氏の思い出


最近、ネットで許萬元(ホ・マンウォン)氏が、すでに2005年に逝去されていたことを知った。ヘーゲル研究の第一人者であったと思う。

私が20代の時(1977年頃)、東京の労働学校で「弁証法」の講座(12回)があり、その講師が許萬元氏だった。弁証法の論理や、ヘーゲルの著作をわかりやすく解説する許萬元氏の講義を、夢中になって聞いていた。

すでに主著である、「ヘーゲル弁証法の本質」(弁証法の理論 上巻)、「認識論としての弁証法」(弁証法の理論 下巻)、「ヘーゲルにおける現実性と概念的把握の論理」を出されていた。

講義の後、駅へ向かう道を歩きながら、許萬元氏に「次の著作は何ですか」と聞いてみた。氏の答えは「資本論の論理」を考えているということだった。

私は、「資本論の論理」が出版されることを、心待ちしていた。残念ながら、それは叶わなかった。ヘーゲルに対する深い理解と、それを労働者にやさしく教えようとした許萬元氏に感謝を捧げたい。(多田)